論文

著書

感情心理学からの文化接触研究:在豪日本人留学生と在日アジア系留学生との面接から

小柳志津(2006),風間書房,平成17年度科学研究費(研究成果公開促進費)受給

 本論文は、「文化の違いが問題を引き起こす」というカルチャーショック理論について、「文化の違いがなぜ、どのように問題となるか」を問い直した。在豪日本人留学生70名と在日アジア系留学生36名と半構造化面接を行い、対人関係上の文化規範の認識・評価・感情・行動に焦点をあてた。

 その結果、“母国で培われた文化規範”が基準となり、ホスト文化規範を否定的に評価し否定的な感情が起きストレスとなる点、ホストとの対人関係にコンフリクトが生じると相手の規範を否定的に評価し、原因が文化規範の差異に帰せられる点を明らかにした。

 一方、日本とアジアの文化規範について、豪州では日本人留学生はアジア系留学生の規範を“同じアジア文化”と好意的評価なのに対し、日本ではアジア系留学生は日本の規範を“異文化”として日本人との交流阻害要因と捉えていた。

 同じ“日本とアジア”の文化距離にもかかわらず、全く異なる評価が行われるのはなぜか。異文化接触では文化規範の実体的差異が客観的に評価されるのではなく、相手との立場の違いが“境界意識”となって評価に影響するのだ。ホストと留学生は、言語や人種・民族等を基準とした帰属集団の違いにより内集団と外集団が形成される。外集団の差異の強調と内集団の差異の縮小作用が起き、文化規範は主観的に「同じ」「違う」と評価され対人関係の阻害要因となる。したがって、文化の違いより立場の違いが問題を引き起こすのである。

主要研究論文

Impact of Intercultural Communication during short-term study-abroad of Japanese students: Analysis from a perspective of cognitive modification

KOYANAGI, S. (2018) Journal of Intercultural Communication Research, 47(2),pp105-120.

表題日本語:「海外短期研修における異文化コミュニケーションが日本人学生に与える影響:認知変容からの分析」

日本語要約:本研究は、海外短期研修での異文化コミュニケーションが日本人学生にどのような影響を与えるかを調査した。量的分析では、学生達は「視野が広がった」と考えていることがわかった。半構造化面接からは、次の5つのカテゴリーで影響があったことがわかった:「英語の使用」「対人コミュニケーション・スキル」「グローバル社会への関わり」「より大きな可能性への気づき」「生き方に対する積極的な態度」。これらの変化を説明するにあたり、認知行動療法の理論を応用して異文化コミュニケーションがもたらす認知変容モデルを提唱する。本研究は、異文化コミュニケーションが、個人が自文化に根付いてなされていた認知的評価に自覚的となり修正する機会となる可能性を示している。

キーワード:海外短期研修,異文化コミュニケーション,異文化対人関係,認知変容,認知行動療法(CBT),日本人学生

 


日本人引退在外シニアの対人交流:ホストとの対人交流促進・阻害要因の再考

小柳志津(2012)『異文化コミュニケーション』15号,異文化コミュニケーション学会,pp33-49.

 


小柳志津、趙恩英、十市佐和子、天野桂、張海玲(2012),『日本語研究』32号,pp29-44.

 


アジア系留学生にみる境界意識‐文化規範が本質的に捉えられるのはなぜか‐

小柳志津(2005),『異文化間教育』22号,異文化間教育学会,pp80-94.

  現在、異文化接触での問題を文化ごとの思考・行動様式の違いに見出す立場と、そのような文化本質主義を疑問視する立場がある。この対極的視点を理解するため、アジア系留学生36名との面接調査から分析した。結果、留学生は日本人が特定の思考行動パターンを持つと認識し、文化規範がステレオタイプ化さていた。日本の中の多様性は看過され、日本人との対人関係の難しさは文化規範の違いに帰されていた。

  この理由を、相手との関係性から民族的境界が生成されると考えるBarthの理論や、社会的カテゴリー化が集団間の差異化を助長するというTajfelの理論に基づき考察を行った。その結果、異文化対人接触では、何らかの基準で自分と相手を分けるカテゴリー化から境界が発生し、内集団と外集団が生まれる。差異化の作用で外集団の文化規範は内集団のものとは異なると捉えられ、差異が強調され否定的な評価がされる。

  しかし、“日本人-母国人”といった民族が必ずしも境界とは限らない。カテゴリー化は、“日本語母語話者-非日本語母語話者”、“ホスト-留学生”など関係性の捉え方で様々に起こる。文化接触では実体的差異が客観的に解釈されるのではなく、関係性から境界が生成して文化規範の捉え方に影響し、差異は強調されて解釈されるのだ。


小柳志津(2003),『人間文化論叢』5巻.お茶の水女子大学,pp311-320.

  本論文は、オーストラリアの大学学部と大学院で学ぶ日本人留学生31名と面接調査を行い、彼らのオーストラリアでの対人関係を分析した。その結果、日本人留学生は現地オーストラリア人とよりも、アジア出身留学生(日本人を除く)と非常に活発な交流を持ち、良好な対人関係を形成している様子が明らかとなった。また、オーストラリア人とはコミュニケーション時に強いストレスを感じる者が19.4%だったのに対し、アジア系留学生に対してはストレスがほとんどなかった。

  コミュニケーション言語は同じ英語であるにも関わらず、このような違いがある点を考察したところ、「言語」、「人種」、「滞在身分」、「文化規範」の4つの領域でオーストラリア人とアジア系留学生の間に境界が引かれていることが明らかとなった。境界意識をより多くの領域で感じる場合、オーストラリア人友人が少ないことも判明した。一方、立場を共有することでオーストラリア人と境界意識を感じない例や、自分から境界意識を打破してオーストラリア人友人を作っていった例なども報告された。


小柳志津(2002),『留学生教育』7号.留学生教育学会,pp27-38.

  本研究はオーストラリアに留学する日本人学生70名(高校生15名、英語学校12名、専門学校・大学準備コース12名、大学学部及び大学院31名;女44名、男26名)を対象に面接調査を行い、留学動機と成果に関して質的及び量的分析を行った。

動機による留学生類型は、学問習得やキャリアアップを目指す“学問キャリア専念型”、日本の教育システムに適応できず希望の進学ができなかった“ドロップアウト型”、海外での経験を重視する“好奇心型”、日本社会や自分の現状から脱け出したかった“現状脱出型”に分類された。動機類型と英語や学業成績の関係は有意差がなかったが、動機類型と人間的成長の成果に関しては好奇心型がより強く「自信がついた」と感じドロップアウト型全員が「自己変化を感じる」と答え、他の型に比べ有意差が出た。

  これらから「母国での学歴や考え方、人間関係まで自分の状況やステイタスを変える手段としての留学」という新しい留学概念が明らかになり、従来の学問キャリア専念型よりも他の新しい3タイプに人間的成長の成果が顕著であったことは今後留学を考える上で重要な点である。

 


小柳志津(1999),『オーストラリア研究』12号,オーストラリア学会,pp33-46.

 


その他の主な論文等

「日本人引退海外滞在者と留学者の異文化体験:文化規範への認知的評価の変化と関係要因」

小柳志津(2007).平成17-18年度科学研究費補助金基盤研究(C)報告書